大吉青春日記その1~Cocoa~
大吉、当時17歳。
この日、彼は受験発表よりも緊張していた。
1週間ほど前に、同じバイト先の、同い年の女の子Yさんに告白をしたのだ。その結果を知らされるときが刻一刻と迫っている。
「返事は考えさせてほしい」
そう伝えられてから音信が途絶え、悶々とした日々が続いていた。
「○日の17時頃って空いてる?シフト入る前にお話がしたいんだけど」
唐突に受信したメールにビビるも速攻返事を送る。
「わかった、時間あるから行くね」
そう返事を送ったあと、学校の駐輪場で自転車に乗るや否や全速力で漕ぎ出す。案の定、行徳橋のあたりで疲れて失速した。市川大野~南行徳間とはそういうものだ。
制服のままたどり着いた待ち合わせ場所。店内を見渡しても彼女の姿は見当たらない。入り時間変わったのでは?と思いその近くにあるバイト先を覗いてもその様子はなく、ただただ秋風が彼の体を冷やしていった。
17時を少し過ぎたとき、遠方から待ちわびた人の姿が見えた。
「ごめんね、バイトの準備してたら遅くなっちゃった」
「あはは、俺も今来たとこ」
「大吉君、絶対ウソだ。顔に出てる」
「マジで?」
「とりあえず中入ろう?」
「うん」
Yさんはミルクティー、大吉はココアを注文し適当な席に座る。
お互いに気まずさがあるのか、このあとのバイトの話、部活であったことなど、表面を撫でるだけのような会話が10分ほど続いた。
その会話に一瞬の間ができたとき、Yさんは何か意を決したようにミルクティーを一口飲み、少し暗い表情で喋り始めた。
「・・・大吉君、前に私の事好きだって言ってくれたよね?でもね、私ちょっと前から気づいてたんだ。」
(ですよねー!!)
「私さ、○○先輩のことで色々あったじゃん?そんなときも大吉君味方でいてくれて嬉しかった。それと同時に残酷なことしてるなって苦しかったんだ・・・」
「まあ・・・うん・・・楽な気分ではなかったかもね」
「ごめんね・・・」
「そこは気にしないで」
「この1週間、ずっと考えてたんだ。大吉君は優しいし、一緒にいると面白いし、頼りがいもあってすごく安心できる人だなって・・・」
(・・・え?これ来たんじゃね?これから真冬だけど春来たんじゃね?)
「でもなんか付き合うっていう気にはなれないんだよね・・・」
(えーーーーーーーwwwwww)
「なんていうかうまくいえないんだけど・・・付き合おうとかそういうのじゃなくて・・・あ、異性として見てないとかでもないんだけど、なんていうか・・・大吉君にはもっと良い子が入るんじゃないかなって」
(鎌ヶ谷大仏のような表情)
「ほ、ほら!私達これから受験じゃん!?そういうのも考えるとそっちに集中していかなきゃいけないなって思うし!」
(ボブネミミッミの「もう見た」のときの顔)
「とにかく、大吉くんとは付き合えない、ごめんなさい」
「そっか・・・それなら仕方ないよね・・・(もうなんかよくわかんない)」
ポテトが上がった時の音楽が鳴り響く店内、レジ前のサラリーマンがテリヤキ・バーガーセットを頼み、1万円札を出した確認の「1万円入りまーす」という店員の声。
「あっ、私そろそろバイト行かなきゃ」
「じゃあ店でようか」
「大吉君、ほんとゴメンね・・・でも大吉くんが好きって行ってくれたことは嬉しかったよ!ありがとね!」
「うん・・・バイト、頑張って」
「明後日シフト一緒だったよね?じゃあまたね」
「またね」
彼女を店まで見送ると、とうの昔に冷めていた飲みかけのココアを流し込むように飲み干した。どんな味だったかなんて感じることもなく、カップの底に溜まったココアのペーストが、溶け切らなかった彼の心を表していた。
「とりあえず、付き合いたくないって思いだけはしっかり受け取ったよ・・・」
東西線の高架下、歩くような速さで自転車を漕ぐ帰り道。南行徳の町並みは、いつもよりくすんで見えた。